DR(FPD)に関する研究の基礎

2018.4

金沢大学医薬保健研究域保健学系 市川勝弘

 Digital radiography(DR)のデバイスは,今やcomputed radiography(CR)からflat-panel detector(FPD)にとって代わろうとしている.可搬であることが必須な病室撮影や特殊な体位の一般撮影の場合にCRのimaging plate(IP)が欠かせなかった過去から,軽量ワイヤレスFPDの台頭の時代がきて,いよいよCR→FPDの構図となってきた.このWebページは,20年近い診療放射線技師の経験とその頃から現在に至るまでもなお継続的にDR研究を行なっている筆者が,これからDR研究を行い臨床に貢献しようとしている若手の診療放射線技師や様々な職種の若手の方々に向けて贈る基礎的解説である.何の査読も受けていないコメント的文章と思って気楽に読んでいただきたい.

 

1. ディジタルX線画像
1.1 ディジタル化の恩恵
 DRにおけるX線画像のディジタル化の恩恵は計り知れないものがある.単に保存性が良く転送ができるからとか,画像処理が効くからということは恩恵の一部である.筆者が考える最大の恩恵は,ディジタル化によってFPDがディジタル計測器となったことである.計測器なのだから基本的には,記録された計測値(ディジタル値,ピクセル値)は,X線強度(線量とほぼ比例)に比例し,その後の解析は非常に楽でその応用範囲は広い.よって様々なアプリケーションがこれまで開発されてきた.

・ディジタル化の恩恵は,FPDをX線画像の計測機器にしたことにある.

 

1.2 FPDの感度(X線利用効率)
 X線の強度は到達したX線量子数に基本,比例し,効率が高いFPDほどそれをほんど電気信号に変換できる.では,効率よく量子を電気信号に変換できたら何が変わるであろうか.「信号値が増加する」は良い答えのようだが,ディジタルでは簡単に演算できるので,信号値に乗算をすれば信号値を増加できる点で,良くない答えである.筆者が考える良い答えとは,「量子を多く捕獲したことでピクセル間の統計的変動が小さくなり,結果的にノイズ(変動/平均信号値)が減少する(平均量子数‾qの統計的変動は√‾qであることに基因する)」である.ノイズが減少するので,計測結果を元にした解析が正確になり,ますます計測器としての価値が上がることになる.ただし,間違ってはならないのは,感度が高いFPDは,少ない量子数でも多い量子数と同じような画像を提供できるものではないことである.CRからFPDに変えたときに線量が減るのは,CRがX線を20%程度しか利用していなかったためである.

・X線利用効率が高いFPDは,低ノイズになり,従来より線量を低減できる.
・FPDの感度が高いからといって,少ない量子数から多い量子数と等価な良好な画像を取得するものではない.


1.3 感度と画像処理
 同じX線量の下では,高感度(高detective quantum efficiency : DQE)なFPDの画質が勝る.これは捕獲できる量子数qが増加しノイズが低減するためである.また画像処理によってノイズが低減できるという言葉をよく耳にする.しかし,画像処理が年々進化しているものの,未だこれは,捕獲したqで,より多い量子数q’(q’>q)で得られた画像を作る魔法のような処理では決してない.ほとんどのノイズ低減処理はスムージングを基本としていて,あくまでも中高周波ノイズを抑制するだけで,ノイズによって乱れたテクスチャは改善されない.よって,X線画像の画質を論議する時にどれだけのX線を実効的に利用したかを論議するべきである.これを飛ばして画像処理を論議するshort cut的手法はとるべきでないと考える.

・画像処理によってあたかもqが増えたような画像を作ることはまだ実現されていない.
・画像処理を論議する前に,元データの実効的画質(線量と検出効率)を論議すべきである.

 

1.4 制御困難な被写体コントラスト
 ディジタル画像は演算ができるので,コントラストを制御するlook-up table (LUT)を自由な曲線とすることができ,画像のコントラストは自由に操れる.しかし,それはアナログフィルムで従来フィルムコントラストと言われていた部分の話である.FPDもあくまでも被写体からの一次X線透過状況や散乱線状況を受け取る”受け身的”装置であり,それがゆえに,検出器側で被写体コントラストを制御するのは困難である(不可能である).

・ディジタル演算によって被写体を透過または散乱してきたX線強度分布を制御するのは不可能である.よって,胸部高圧撮影のように被写体コントラストをコントロールして良好な画像を得る手法はディジタルでも有効である.

 

1.5 SDNRによる画質評価
 ディジタル画像の画質評価には,signal-difference-to-noise ratio(SDNR)が有効とされている*.SDNRは,signal-differenceをstandard deviation(SD)で除することで得られる.アクリルなどによってある被写体厚を模擬して,そこにアクリル板や骨等価物質による板などの信号体を置き撮影する.signal-differenceは,信号体とバックグラウンド上に置いたregion of interest(ROI)の平均値の差(の絶対値)から得られ,バックグラウンドのROIからSDを得る.この測定は,線形性のあるデータ(一般にrawデータとされるデータ)を用いて行う必要がある.SDNRはコントラスト成分を加味しているため,信号体を適切に選択することで異なる管電圧や付加フィルタ,グリッドの影響などを評価できる.ただし,空間周波数成分を考慮しないため,それが異なるシステム間の比較や,画像処理の影響を評価することはできない.前述したように画像処理よって,量子数があたかも増えたような画像を作ることはできないのであるから,まずはこのSDNRによって使用する撮影条件の画質を見極めることが,最適化への有効な道筋づくりとなる.
* Ehsan Samei, et al. Radiation Protection Dosimetry (2005), 114(1-3), 220–229

 

2 EIの利用
2.1 EIの算出根拠
 Exposure Index(EI)は,画像に内に設けられるROI内のディジタル値(value of interest: VOI)から検出器への到達線量を推測する非常に“簡易的な”画質管理の指標である.ディジタル化が進む中で,S値などの種々のDRシステムが独自に設定した指標によりユーザが混乱をしたため,それらを統一した指標で管理することで,過大や過小線量を防ぐ目的で考案された.被ばく管理の指標として誤認される場合があるのは,被ばくに関連しているからである.

・EIは非常に簡易的な画質管理の指標であり過大や過小線量を防ぐ目的で考案された.


2.2 EIの不確定要素
 EIが無視しているものがいくつかあり,画質レベル(到達線量)を正確に推定できない.まずは,検出器の感度である.到達線量であるので,その後の検出器の感度は関知しない.検出器感度に差があれば,当然画質は変わる.グリッドはキャリブレーション時に装着するが,外した場合には関知しない. EIは簡易的であるがゆえに,RQA5という管電圧70kVを用いたひとつの線質によったキャリブレーションが利用される.よって線質が変われば,到達線量の推測誤差が増え画質が変わる.もちろん線質が変われば被写体コントラストが変わるがこれも関知しない.検出器の線質依存性にも対応できない.また,EIの計算に使うVOIの個人差や検査種別による差がある.これは意外に大きく,被写体の状況やポジショニングだけでなく,VOIを得るためのROI設定アルゴリズムにも大きく影響を受ける.VOIアルゴリズムが我々が画質を判断する領域を正しく認識し,また正しいの評価値を得ているかが重要である.

・検出器感度,線質,グリッドの有無,ROIによってEIが変動する.

 

2.2 EIT
 Target EI(EIT)の決定方法は,標準的な体格で得られた基準画像から導き出されたEI値をEITとしている.したがって,目標とするEI値であるので,目標とする画質の指標である.検出器感度や線質などの問題は,それぞれの機器や検査(管電圧やフィルタやグリッドも含め)のEITを決めることで吸収できるかもしれないが,困難である.なぜなら,まず,意外と大きいROIによるEIの変動は,如何ともし難い.EIの記録とEITの比較が困難を極めるのは,VOIの変動によるところが大きい.また画質評価の際に,EIが異なるよく似た体格の複数の臨床画像を得るのが困難である.かといってファントムでは胸部腹部などは特にリアルではない.骨も最近,模型骨であることから,リアルでない.よって判断が難しい.また仮に臨床画像が揃ったとしても画像処理後の画像から適切な判断を下すのが意外と難しく正確でない.ちょっとしたフィルタ処理の違いから像の良し悪しの判断が乱され,先に述べた捕獲したqに依存する真の画質を適切に判断できない場合が多い.

・EITの利用には多くの困難がある.ROIの誤差や画像処理後の画像比較など問題が多い.

 

2.4 EIのリミテーション
 上記のEIのリミテーションは,様々な論文や解説*で明確にされている.よってこれらのリミテーションを知った上で,EIを利用すべきである.しかし,リミテーションを知るとEIを用いた画質管理のモチベーションに変化が起きることは避けられない.

* 例:J. Anthony Seibert & Richard L. Morin, Pediatr Radiol (2011) 41:573–581

 

2.5 EIの目的
 EIの目的は,その不確定要素からもわかるように不必要に多い高線量や限度を超えた低線量の回避である.EIのずっと以前に富士フイルムメディカル社のCRではS値があった.CRのみで運用していた時代では,S値によって不必要な高線量や限度を超えた低線量は回避されていた(はずである).しかし,S値は被ばく最適化のツールではなかった.EIの目標とするところは変わっておらず,個々の臨床画像の高線量と低線量を回避するためのQCツールであることは他の解説書にも明記されている.
 筆者は,日本の診療放射線技師の高い知識とモラルレベルに対して,高線量や低線量を不確定要素の多いEIを使って避けなさいと半ば命令されることを,良いとは思わない.日本の診療放射線技師はEI利用の対象となるレベルを優に超えていると確信している.

・日本の診療放射線技師の高いレベルは,過線量や過小線量を避けるためにEI利用を勧められる対象レベルを優に超えている.

 

3. DRにおける被ばく線量管理
3.1 DRによる被ばく
 DRにおける被ばくの指標は,入射表面線量(entrance surface dos: ESD)が代表格であると認識している.皮膚面または直下の線量が一番高い(深部は徐々に低下する)ことから,筆者もリーズナブルだと思う.そして臓器線量から算出する実効線量はリスクを示す良い指標とされる.しかし,臓器線量などの実測は不可能であることから,これを得るのは難しい.よってESDが被ばくの指標として適切であろう.

・DRの被ばく管理にはESDが有効

 

3.2 DRL
 被ばくの指標は,表面線量すなわちESDである.“被ばく最適化”のツールとして有名なDiagnostic Reference Level (DRL)では,一般撮影の線量指標としてESDを用いる.そしてDRLは,調査で得られたESDの統計データから75パーセンタイル値(例外あり)を得て,これを最適化のための参考線量値とする.参考値であり,これを超えないのが望ましいので,やや高い線量である.またDRではCRの値も含まれるので,最近のCsIタイプのFPDはDRLの半分の線量でも十分である.

・DRLは被ばく最適化の有効なツールであり,一般撮影ではESDを用いる.最新FPDは感度が高いため,DRLより十分に低下した線量で撮影できる.

 

3.3 DRLとEI
 DRLは標準的体型での参考値である.よってEIを一定とした場合体厚が厚い場合は,ESDが増加し(薄い場合は低下),DRLとは当然合わない.EIは検出器到達線量の推定値であるのでEIからESD(すなわち被ばく)はわからない.ただし,標準体型(標準体型または体厚ファントム)でESDとEIの関係を調べておけば,その標準体型のEIから前述した誤差を含みながらESDの管理はされる.しかし標準体型以外では,EIからESDがわからないので,EIのデータを蓄えても,ESD分布はわからず,DRL値との関係が不明のままである.

・EIからESDはわからないため,DRL(被ばく最適化ツール)の基礎データにEIは使えない.

 

3.4 AECとEIとDRL
 自動露出機構(automatic exposure control: AEC)は,腹部や胸部などに有効に利用されている.到達線量を一定にしようとするAECは,EIを一定にする制御装置と言っても過言ではない.よってAECの管理は重要である.まず標準体型でのAEC設定を,目標とするESDとなるように調節すべきである.そのESDはDRLを参考にした目標値とする.そうすれば,自動的にEIは最適化される.もちろんAECの不確定要素はあるので,撮影部位は限られる.
 ただし,AECの基本的な機構はアナログ時代から変化しておらず,ディジタル画像の画質指標であるSDNRを異なる被写体厚でも同一にする機能は有していない.よって,痩せた人には過大線量となり,太った人には過小線量となるため,今後改善が望まれる.

・AECはEIをほぼ一定にする.よってAEC設定とESD(DRL)の関係を調べることがまず重要である.

 

3.5 AECの効かない部位における被ばく最適化
 AECが効かない部位は,決められた範囲や位置のX線量から制御して,画質を良好に保つことが出来ない部位である.そのような部位では,被写体状況が大きく変わることからEIにおけるVOIも正確とはならないことが多い.このような部位においては,撮影線量が正しいにも関わらず,適した線量の2倍以上や1/2倍以下の値が示される場合がある.
 被ばくの最適化には,DRLが有効でそのESDを参考とする.標準体型における目標ESDと自施設の撮影条件の関係を各部位で確認するのは困難なことではない.所定の位置における線量と撮影条件の関係を調べるだけである.そこから被写体に応じて線量を調節することは日本の診療放射線技師の高いレベルであれば,たやすいであろう.そのような場合に,過大線量や過小線量が起きるとは到底考えられない.

・各部位で撮影条件とESD(DRL)との関係を調べることが被ばく最適化の入り口となる.

 

4 散乱線
4.1 散乱線の影響
 散乱線は,被写体内で散乱したX線の集合でほぼ一様な強度分布を持ち,X線画像のコントラストを低下させる.散乱線含有率(scatter fraction: SF)を用いると,1-SF倍のコントラストとなる.DRの画質指標として用いられるSDNR2(前述)はコントラストの2乗で変化するため,散乱線の影響は(1-SF)の2乗で効いてくる.すなわち,SFが50%ならば,SDNR2は1/4となる.腹部では,SFが80%以上に達するので,SDNR2は1/25以下となり散乱線による被害は甚大である.

・散乱線は顕著に画質を低下させる.(1-SF)の2乗の低下を来す.

 

4.2グリッドの効果
 散乱線除去グリッド(Grid)は格子状構造により散乱線を低減する.また散乱線は均一性を著しく低下させるので,その均一性も向上させる.またGridはアルミなどの中間物質や鉛箔によって1次X線も吸収する.しかし前述した(1-SF)の2乗という散乱線の悪影響は,Gridの散乱線低減によって大きく改善し,容易にGridなしを上回る.すなわち,Gridの利用によって,被ばくを低減できる.Gridによって1次X線が吸収されるから,線量を上げる必要があり,そのために被ばくが増加するというのは,アナログ時代にGridによって濃度が低下するのを防ぐために線量を上げたことの名残で,被写体コントラストとノイズとの関係により画質が決定されるディジタル画像に対しては誤認識である.

・グリッドにより顕著に画質が改善するので線量を上げる必要はない.むしろ低減できる.

 

4.3 散乱線補正処理
 散乱線補正処理(software-based scatter correction: SBSC)は,散乱線の分布を推測してそれを元データから減算することを基本とする.しかし,散乱線は量子ノイズを大量に持ち込むため,一筋縄ではいかない.すなわち,推測分布はあくまでもノイズの無い緩やかな分布成分であり,それを減算すると大量の(散乱線による)量子ノイズだけが残る(残留ノイズ).SFが80%程度(腹部など)のとき,SBSCがコントラストを完全に復活させたとしても,通常Gridに対して1/2.5程度のSDNR2となる.すなわち半分以下の線量の画像と等価になり画質はかなり落ちる.これをノイズ除去処理で復活させるのは至難の技である.よって,ノイズを完全に低減してあたかもqが増えたかのような画像を画像処理で得る技術はまだ実現されていない状況からは,SBSCが背負うこれからの課題は大きいと言わざるを得ない.

・散乱線補正においてはノイズ低減処理が重要.しかし,散乱線によって低下した画質を改善するには至らない(1.3 感度と画像処理参照).

 

4.4斜入への対処
 Gridは斜入状況のおいて本来の性能を発揮できないのは,構造上当然のことである.これを避けるためにSBSCを採用するのは,一部の斜入状況以外の多くの症例で画質低下を容認することになる.先に述べたように,Gridの画像が秀逸である以上,この問題は避けて通れない.ただし,もともとGridを用いない条件を確立していた場合に,SBSCは非常に有効な処理である.コントラストが復活し視認性が向上する.

・斜入症例への対処としての全体的SBSC利用は,他の症例の画質を低下させる.
・SBSCはその性質をよく知った上で利用すべきである.基本的性質からSBSCを被ばく低減の目的で使用することは原理上できない.

以上